Archive for 送検事例

賃金不払いの常習


こんにちは。「労働基準監督署・調査対策対応支援.com」の
加賀英治です。

今回も送検事例の中身を分析してみたいと思います。

ちなみに今回で、3例目となりました。

この送検事例については、多くの方が興味を
もってご覧頂いているようです。

ちなみに今までご紹介しているものは、経営者の皆さまに
とって中には、とても耳が痛い
お感じの方もいらっしゃると
思います。

しかしながら、実際の送検事例をご覧になると
襟を正さなければと思われる方も
これまた多いと思います。

できましたら、今後の一助として今回もお付き合い
くだされば幸いに存じます。

それでは、ご覧ください。

神奈川労働局 平成21年7月の送検事例

以下の事件について、使用者と法人を横浜地方検察庁に書類送検
した事案です。
(以下、公表内容そのままで記載します。)

(事件の概要)

経営者は平成14年以降度々賃金不払を発生させていたが、
労働基準監督署の是正勧告を受けたのに拘わらず、なお
賃金不払を繰り返し発生させたまま事業を

事実上倒産させたものである。

≪送検に至った経緯を推理!≫

今回は、賃金不払いということです。
単に未払い残業代が生じていたのかもしれませんし、
事業経営が芳しくなくて、恒常的に賃金が支払日までに
払えなかったのかもしれません。

私の勘ですが、今回は後者かな?
という気がします。

確かに昨今の景気悪化で事業経営が難しい状況下で手詰まりとなり
非常に困惑されていることに同情の念を禁じ得ません。

それでも多くの企業経営者の皆様が、一所懸命社員を
守っている様子に敬意表したいと思います。

しかしながら、そうではない経営者が
いることも一方で事実でしょう。

例えば、次第に以下のような思考に陥っている
経営者もおられるかもしれないのです。

景気が悪い資金繰り悪化役員報酬は下げたくない
労働者の給料を遅配しよう。

そこで、こんな言い訳で自ら正当化する
ことも考えられます。

遅配だったらカットではないんだし、
社員も分かってくれるだろう。
いずれその分は将来払えば済むんだから、
大したことはないよな。

それで、気付いてみたら景気も上向かず、それに伴って
事業も不調続き、給料は度々遅配となる。

従業員も事業経営がうまくいっていない様子は何となくわかっているものです。
それにもかかわらず、経営陣からはまともな説明はありません。
漠然と不景気を理由にして給与の遅配が続き、さすがに員のうちに不満が
生じて
いき、何人かは退職していったのでしょうか…

そしてそのうちの誰かが
労働基準監督署に申告!

こんなことが端緒となったと考えられますね。
(よくありがちですね。)

そして、いずれ数か月連続で給与遅配が
続き、突然の倒産。

こんなパターンは、昨今において特に珍しいこと
ではないと思います。

恐らく、民事再生など法的再建は、賃金未払いが生じていると
裁判所はなかなか認めないのかもしれません。
それでいきなり、破産宣告ということは十分
あり得る話だと思います。

非常に悲しく残念な結果です。

結局、経営者も労働者も不幸な結末と
なってしましました。

私も人情としてはこのように感じますが、法的にはどうなって
いるのでしょうか?

皆様もさすがに
「賃金不払いはダメだよな。」
と感じておられることと思います。

お察しのとおり、
賃金不払い
は単なる道義的な罪ではなく、
明らかに法律違反です。

労働基準法第24条違反ですね。

少なくとも賃金全額払い違反となることは分かりますね。

これは明らかに法違反ですから、労働基準監督署も労働者の申告
があればすぐに対応するでしょう。

しかし、会社の経営難という実情が分かれば、
やかに未払い賃金を支払うように強く求めることは確かですが、
即書類送検とはならないと思います。

労働基準監督署も第一義的には、法違反を摘発する
のではなく、行政指導によって是正を
促すことを目的としています。

したがって、会社の経営難に一定の理解を示しながらも
支払うように粘り強く是正を求めるはずです。

その裏付けとなる表現がありました。
それは次の一文に表れています。

度々賃金不払いを生じさせていたが、
是正勧告を受けたにも拘わらず…」

この一文から、労働基準監督署としては、会社の厳しい状況
を考えながらも是正しなければならないという
ストレスの生じる対応を迫られていたと
いうことが読み取れます。

それに苦境を乗り越えるように経営者とともに
いろいろ考えたいとも思っていた
ことも十分考えられます。

しかしながら、経営者の甘えでしょうか?
労働基準監督官の温情にあぐらをかいて放置し、
かえって悪い状況に発展していったと思われます。

それで、経営が良い方向に改善していればよかったのですが、
意に反して経営は悪化の一途を辿りついに倒産となってしまったのです。
それで、労働基準監督署は、やむなく送検手段に出た
ということでしょう。

ところで、労働者の方々には賃金は支払われないということでしょうか?
確かに倒産したのちに破産管財人によって先取り特権の
順位にしたがった結果、いくらかの配当はあるのかも
しれません。

しかし、破産後は何にも配当がないというリスクは
当然に考えておくべきですね。

それでは、労働者には、全く未払い賃金が支払われることはなく
泣き寝入りとなってしまうのでしょうか?

実はその点は、労働者に保護となる制度があります。

つまり労働者の方々には未払い賃金の8割が国から
支払われるという制度があるのです。
それで、全額とはいきませんが多少は保護されます。

この制度について詳細を多く述べることは致しませんが、
昨今、景気の低迷からこの制度が多用されていると思われます。

もちろんこの制度を発動させること自体が悪であるということを申し上げる
ものではありません。

やむを得ずこの制度を利用しなければならない事例が大半であると思います。

できれば発動させないことが良いのでしょうが、経営者の不測の事態が
生じたときに労働者を守るセーフティーネットの一環として
機能を果たしているのです。

これを機会に経営者の皆さまにも
この事実を一度は確認していただき、認識していただきたいと思います。

とにかく、労働者は労働力を提供してしか生計を立てられないという原則を
もう一度確認して肝に銘じておいて頂ければと思います。

そうすれば、少なくとも書類送検という不名誉な事態を避ける
ことができたでしょう。

私としては、このような不幸な事態が少しでもなくなって、
労使双方が心から共存共栄できることを
切に願うばかりです。

次の事項もご参考下さい。
月100時間を超える違法な時間外労働で書類送検
違法な時間外・休日労働及び割増賃金不払いなどで書類送検
労働基準監督官とは何をする人?

月100時間を超える違法な時間外労働で書類送検


こんにちは。「労働基準法・調査対策対応支援.com」の
加賀英治です。

さて、今回は送検事例の2例目をご紹介してみます。

また、先回と同じく、事例をご紹介するとともに、少し分析を加えて、
今後の労働基準監督署の調査への対策のお役に立てればと
考えております。

それでは、暫しお付き合いください。

東京労働局 平成23年3月の送検事例

以下の事件について、東京地方検察庁に書類送検された事案です。
(以下、公表内容そのままで記載します。)

(事件の概要)

被疑会社は、平成22年3月15日から同年5月28日までの間、
同社第2工場の労働者10名に対し、

当署に届け出た「時間外労働・休日労働に関する協定書
(いわゆる特別条項付きの36協定)
で延長することができる限度の1か月100時間を超えて、

1か月について2時間23分ないし93時間14分の
労働をさせたものである。

≪送検に至った経緯を推理!≫

今回のポイントは次の一点のみです。

36協定の特別条項を超えて、労働させていた。

つまり、先回ご紹介した事例と異なる点は次の部分です。
(先回の送検事例は⇒こちらをご覧ください。)

36協定は作成されていたし、残業代の未払いはない
ということです。

要するに違法に残業させていたことが理由なのですが、
労働時間を詳細に見てみると残業時間が、異様に多い
ことに気づきますね。

1か月の残業時間が、102時間23分から193時間14分ということです。

これは、過労死認定基準を大幅に超える危険なレベルですね。

おそらくこの数字の大きさ自体が、
書類送検の端緒となったと
考えられます。

このような過重労働については、残業代を支払っているか否かに
関わりなく、体に危険な影響を及ぼしますので、
労働基準監督署も手をこまねいているわけには
いかなかったことでしょう。

それで、いきなり書類送検となった可能性も
否定はできません。

つまり、いきなり送検手続をとらなければ
ならないほど緊急性の高い、極めて
危険な事案だからです。

では、なぜ危険といえるのでしょうか?

それは、長時間労働が命にかかわる以下に記す疾患に直結することが、
医学上明らかに認められているからです。

月100時間超、2から6か月平均で80時間を超える
と、以下のような健康障害リスクが高くなります。

・脳疾患⇒脳血管疾患で死亡
・心臓疾患⇒心筋梗塞などで死亡
・精神疾患⇒最悪は自殺

さて、それでは法違反とはどういうことか
おさらいしてみましょう。

[特別条項付き36協定違反とは?]

特別条項付き36協定違反ってなに?
ということかと思います。

まず、36協定は、「時間外・休日労働の労使協定」
という意味です。

それでは、36協定にまつわる具体的な内容についてご説明してみたいと思います。
(以下、できる限り簡単に触れます。詳しくは後日、別稿とします。)

●36協定とは?

労働基準法において、そもそも法定労働時間というものが
定められており、その時間を超えて労働させては
ならないと決められております。(労働基準法第32条
週40時間まで、1日8時間まで)

それを超えて働かせると労働基準法違反として、処罰の
対象となってしまいます。

しかしながら、企業経営を行っていくうえでは、
業務上において緊急事態が生じることは、当然考えられるわけです。
それで、残業を行わなければ
ならない
事態はあり得る
わけですね。

そこで、法を厳格に守らせるだけではなく柔軟に
残業させられるようにするための法的根拠が必要になってくるのです。

それで、使用者と労働者の代表者「法定時間を超えて残業可能」
という協定を締結して労働基準監督署に届出しさえすれば、法違反を解除させて、
法定外残業を可能としたのです。

これが、労働基準法第36条に記載されていることから、
通称「36(サンロク又はサブロク)協定
と呼ばれるのです。

それでも、青天井で何時間までも残業させられるわけでは
ありません。

上限というのがあります。

具体的には、原則として、月45時間まで、年間360時間まで
となっております。

これを超えると法違反として処罰の対象となって
しまいます。

それでは、それ以上残業させられないのでしょうか?

実は、さらに残業させることが可能なのです。
それが、いわゆる「特別条項付き」というものです。

●特別条項付きとは?

それでは、具体的に「特別条項付き」という意味を
ご説明します。

厳密に言えば、この特別条項に月と年間の
上限はありません。

それで、月100時間まで設定することもできるのです。

しかしながら、特別条項を発動できるのは
年間の半分まで、つまり最大で半年分まで
ということになります。

この約束を破ると、これまた法律違反として
処罰の対象となります。

今回の事例では、その特別条項で定めた100時間
超えて労働させていたので、明らかに法律違反となるわけです。

●引き金となった要因

長時間残業させた会社側の理由としては、どんなことが考えられるでしょうか?

この会社は2か月弱の間、かなりの残業を強いていたことになるのですが、
緊急事態が生じた様子が汲み取れますね。

すなわち、いきなり大量の受注が生じたか?または、大量のクレームが
生じて緊急の対応を迫られたか?

恐らく、技術的な問題もあり、急に雇用して
人員補充することは、なかなか難しく、ついつい今までの
人員で業務をこなそうとしたのでしょう。

その結果、もしかしたら、過労死か何らかの重大な健康障害が
発生したということも考えられます。

こんな実態が端緒となって、通常ではあまりあり得ない
36協定違反で書類送検となったと考えられます。

このように外形上は、36協定届を作成して届出をしっかり行っていて、
しかも残業代を支払っていたとしても、送検される
パターンがあることを念頭に置くべきです。

つまり、法定労働時間を大幅に超えて残業させ、
しかも労働者の命にかかわる健康障害が生じる恐れがある場合には、
労働基準監督署は躊躇することなく、法違反を根拠に送検するということです。

未払い残業のことだけではなく、労働者の健康を気にかける必要が
あることを物語っている教訓的な事例ですね。

是非とも企業経営者の皆さまには、気をつけて頂きたいと思います。

それでは、次回の記事をお待ちください。

以下の項目もご覧ください。
労働局公表の送検事例
違法な時間外・休日労働及び割増賃金不払いなどで書類送検

違法な時間外・休日労働及び割増賃金不払いなどで書類送検


東京労働局平成23年3月の送検事例

以下の事件について、東京地方検察庁に書類送検された事案です。
(以下、労働局公表内容そのままで記載します。)

(事件の概要)

被疑会社は、平成20年9月21日から平成21年4月20日
までの間、労働者1名に対し、時間外労働・休日労働に関する協定
(いわゆる36協定)を締結しないまま、違法な時間外・
休日労働をさせたもの。

また、時間外労働と休日労働に対する割増賃金及び深夜
(午後10時から午前5時まで)における労働に対して、約204万円の割増賃金
を支払わなかったものである。

≪送検に至った経緯を推理!≫

以上、具体的な事件を御紹介したのですが、単に事例を紹介
しただけでは芸がない…とおもいまして、
ちょっと経緯なんかを推理してみようか
と思いました。

今後ともこのような推理コーナーを設けて
行きたいと思います。

ご興味があればお付き合いください!

さて、それでは早速、今回の事案を考えてみましょう。

以前にも記事を書きましたが、労働基準法違反で
書類送検されるということは、余程のことが
ないと行われないわけです。

この事案は、送検される約2年前の事案ということ
ですね。

この時間的空間から、恐らく労働基準監督署の是正勧告に
全くしたがって居なかったとか、無視していたなど
の可能性が濃いことが推察できます。

では、もっと突っ込んで中身を分析してみましょう。

今回の事案を2つに分けると次のようなものかと
思います。

・36協定不締結、不届の問題
・割増賃金不払いの問題

それでは、ひとつずつ触れてみましょう。

●36協定不締結、不届事案について

今回は、まず36協定が締結されていないことと
ともに届出がなされていないことを
一つの理由として挙げています。

まさにこの事案にある、36協定を締結していないこと
は、一般の中小企業では時々あることです。
(特に社労士が顧問となっていない企業では。)

しかしながら、この点が指摘されてもすぐに
社内で過半数代表者を選定して、労使双方が記名押印を行い、
その後速やかに36協定届を提出すればよいのです。

そうすれば、
労働基準監督官はすぐに是正したとして
好意的に取り扱い、それで監督終了となります。

(今回は残業代未払いの件もありますので、即終了
とはなりませんが…)

もしやり方が分からなければ、真摯な姿勢で指導を願えば
良いのです。

そうすれば、送検処分という手荒なまねは絶対に
あり得ないです。

私にとって、この問題は、
難易度としては低い部類の案件だと思います。

それで、労働基準監督官が出した是正勧告書を全く無視
して放っておいている可能性が大きいことが
読み取れます。

つまり、是正期日が来ても是正報告書を提出しない
ばかりか、その後の出頭要請も全く無視している
など大いに考えられます

気をつけたい教訓を含んでいますね。

●割増賃金不払い事案について

それでは、割増賃金を支払っていなかったこと。
これについてみてみましょう。

この問題は、結構大変です。
つまり、会社にとって、実際に身銭を切らなければ
ならないからです。

労働基準監督署は、タイムカードやパソコンのログ
なんかを証拠に法定の計算式に当てはめて、
キッチリ残業代をシミュレートして
きます。

会社としては「痛い!」の一言となります。
しかも過去に遡って、支払えということですので。

大抵の場合、証拠関係を否定できないでしょうから、
抗弁は難しいと思います。

基本的には、これは逃れ難いですね。

きっと会社は、未払い残業代を支払わずに
全く何の報告も行ってこなかった
可能性が伺えます。

●引き金となった要因

きっと、とある労働者が、9月に途中入社したところ、
会社と何らかのトラブルとなり、7か月後に
退職となったのでしょうか?

原因は、労働者が法令意識が強かったのか?
過重労働があったのか?
また他の業務上の不満などが
あったのかもしれません。

つまりいろいろ想像がつくわけですね。

それでは、具体的な数字からは何かわかることは
ないのでしょうか?

数字から推理してみることに
しましょう。

7か月で204万円の残業代…これって多いのでしょうか?

ざっと計算してみましょう。

仮に1ヵ月の所定労働時間を20日と仮定します。
そうすると、7か月の雇用期間ですから、
雇用契約期間中の総労働日数は
次の通りとなりますね。

20日×7か月=140日

それで、とりあえず月給32万円として、時給換算すると
つぎのようになります。

320,000÷20日÷8時間(1日)=2,000円(時給相当)

この場合、単純に×1.25の割増賃金を支払っていない
と仮定するとこんな感じになります。
(実際は、深夜と休日がありますが、
単純化するために)

2,000×1.25÷204万円=816時間

816時間÷140日=5.8時間(1日の残業時間)

つまり、単純に時間外を計算すると1日約5時間前後も残業
をさせていた可能性があることが伺えます。
(月給額が少なければ5時間以上となり得ます。)

これを1ヵ月で計算してみると次の通りです。

5.8時間×20日(月所定労働日数)=116時間(月残業時間)

つまり、7か月毎月100時間相当かそれ以上の残業があった
可能性があると推察できます。

これは問題ですね。

要するに過労死認定基準の限界ぎりぎりかそれを
超えているということです。

こんな分析をしてみると、結果として次のような状況が
推察できるのではないでしょうか?

残業が凄くて、大変!
しかも残業代出ない!やむなく退職⇒まもなく
労働基準監督署に申告へ!

ということが見えてきますよね。

現に「労働者1名に対し」残業代を支払っていない
という事案ですから、こんな推察が
あたらずも遠からずと思います。

この事案が、起訴されたかどうかは分かりません。

しかし、民事裁判での請求で残業代を請求された
可能性も大きいです。

この会社がどのような規模かはわかりませんが、
痛みを通して教訓を学ぶことになって
しまったと思います。

皆様も教訓として、常日頃から労働基準法を
意識した経営をお願いしたいと
思います。

それでは、また次回以降、都道府県の送検事例
を記載したいとおもいます。