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労働基準監督署は解雇の何を判断するのか?


こんにちは。「労働基準監督署・調査対策対応支援.com
の加賀英治です。

今回は、会社からよくある反応の一つについて
お答えしたいと思います。

中小企業を経営しているあなた
また管理部門のあなたにももしかしたら遭遇することが
あるかもしれませんので、御参考いただければと思います。

どんなことかと言いますと…

最近労働者を解雇したのですが、この件で労働者が
労働基準監督署に駆け込んだ場合、労働基準監督署は
この解雇を認めてもらえますかね?
こんな質問や反応です。

こういったことに関連したことについてお答えしたいと思います。

たまにこんなことがあります。

労働者が解雇されたあと、労働基準監督署に
駆け込んで、「こんな解雇取り消してください!」
というのです。

つまり、労働者の中には、労働基準監督署が会社が下した
解雇が
不当であることを判断してくれたり、その権限で
解雇を
取り消してくれると思っている人がいるのです。

こんなことが果たして、
労働基準監督署に
できるのでしょうか?

そもそも
労働基準監督署が
解雇について
何を行うことができて
何が行えないのでしょうか?

こういった内容を以下、
御説明していきます。

先ほどの労働者の申し出について、
労働基準監督署はどのように
判断し、対応するのでしょうか?

ちょっとその前に以下の点を
確認しておきたいとおもいますので、
御面倒でもお読みください。

労働基準監督署が解雇の無効の判断が行えるか否かを
考えるにあたって以下の2点にまとめられると思います。

1.労働基準監督署が解雇の有効や無効を判断できるか?
2.無効な場合には、それを取り消せる法的な権限があるか?
ということになります。

以上を判断する場合には、少なくとも次の要件が必要になりますね。
・労働基準法に解雇が無効である条文(法的根拠)があること。
・労働基準監督署が解雇の有効か無効かを判断でき、
 無効にできる権限について法的な根拠があること。

まず、少なくとも労動基準法において、
労働者は、労働基準監督署に解雇無効を申し立てることができて、
取り消せるというような条文が必要ですね。

しかし、こんな条文は
労動基準法にはない
のです。

確かに昔は、労働基準法第18条の2という条文があって、
不合理で社会通念上不当である
解雇は
無効であるというものがありました。
(正確な表現ではありませんが)

しかし、この条文は、
労働基準法に書かれているにもかかわらず、

労働基準監督署が
解雇の有効や無効を判断したり、

法違反で是正勧告するような内容ではない
とされていました。

これはどういうことなのでしょうか?

これはつまり、
解雇が有効か無効かは、そもそも
民事的なルール
なのだということです。

経営者のあなた、管理部門のあなたも
あまり意識したことがないかもしれませんが、
解雇とは雇用契約を会社から一方的に解消すること
ということになります。

すなわち、雇用契約も契約の一種です。
それで、契約に関することは民法に書かれている
ということなのです。

ちなみに民法をみると
解雇はいつでも自由にできる
書いてあるのです。(民法627条「定めのない雇用の解約の申し入れ」
(意外に思った方も多いと思いますが…)

そこで、あなたは、
だったら、別に他の条文を作らなくていいじゃないか!
と言いたくなるでしょう。

しかし、
解雇とは、労働者より経済的立場の強い会社が
行う契約解消処分ですね。

そのことを考えると、いくら
解雇自由だからといって、会社が特に大した理由もなく
バンバン首を切っていったら労働者の雇用は不当にも保護
されないと日本の司法は考えているのです。

いわゆる、力関係の強い会社は、権利を濫用
しやすい立場にあるので、
解雇は慎重に判断しますよ
と考えているのです。
(経営者のあなたには申し上げ辛いのですが…)

さらに以下のような日本独特な社会事情も
考慮されています。
どういうことかというと…

依然として終身雇用制を前提として社会は動いているので、
一度職を失ったらなかなか従前以上の待遇で再就職できない
という社会的な事情を考慮にいれて、会社の行う
解雇は厳しめに判断しているということです。

それによって、解雇は自由とはいうものの実質的には
解雇は無効になりやすい
傾向になってきたのです。

巷でよく言われるように
会社が解雇を行うのはなかなか難しいよ
というのは、こういった理由によるのです。

これらのことが、
判例の蓄積によって
明らかになってきました。
具体的には以下のような内容が判例でよく言われます。

社会通念上相当でなく合理的でない解雇は無効である

難しい言葉でいうと「解雇権濫用法理」といいますが、
こんな統一的な理論を導き出したのです。

以上の理由があって、キチンと明文化した民事的ルール
が必要だという話になって、労働基準法の中に
解雇ルールが一時期、明文化されたということです。

では、その民事的なルールが労働基準法に記載
されていたのはなぜでしょうか?

これは、単に労働関係の民事ルールが何もないので、
どこかに載せなければならないよね?
ということで、無理やり労基法に放り込んだというだけです。

ちなみにこの条文は、今は削除されています。
なぜでしょうか?

それは、平成19年労働契約法という
労働の民事的なルールが新設されたからです。

そこの16条に全く同じ内容の条文を
載せています。(以下、条文となります。)

解雇は、客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当
であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、
無効とする。

このように今は、労働契約法で労働の民事ルールを
定めているということで、解雇についても同様だと
確認していただければ結構です。

ちょっと長々と書きましたが、何を言いたいのかというと、
解雇が有効か無効かは、そもそも労働基準法違反
という問題ではなく、民事的な判断なのだから、
労働基準監督署では取り扱わないのですよ。ということです。

つまり民事不介入というわけです。

つまり、最終的には、裁判所で民事事件として
決着を付けるべき問題となるということです。

では、冒頭のように労働者が
「こんなことがあって解雇された
んですよ。こんな解雇っておかしいですよね?」
と監督署に申し出たとき、

果たして監督署はどんな対応をするのでしょうか?

監督官は、労働者に対して次のように
言うことが想定されます。

「あなたは、即日解雇だったのですか?
それとも解雇の何日前に通告されたのですか?

労働基準監督署としては、解雇の予告が少なくとも
30日前になされたのか、または即日解雇であれば、
少なくとも平均賃金30日分の解雇予告手当を
支払ったのかが知りたいのです。

それで、もしこれらが適正になされていない
のであれば、会社に是正指導しますよ。

とまずはこんなことを言うでしょうね。
(もちろん、解雇通知書などがあれば
証拠となる書類をなるべく多く出してくれ
ということも言うでしょう。)

次にこんなことを言うでしょう。

「そうですか。そんな理由で解雇されたのですか。
ちょっとひどいですよね。
確かにそんな理由での解雇は、通常民事裁判では、
会社は負ける可能性は高いと思います。

でも監督署は、解雇そのものが有効か無効かを
判断することはできないのです。

まあ、解雇予告や解雇予告手当のことを会社に
言うときにちょっとその辺も言ってみても
いいですけどね。

でも、私たち監督官がこんなこと言っても会社は
自分たちがやった解雇に非があることを
認めることは、まずないですよ。

申し訳ありませんが、監督官はそれ
以上のことはできませんから。

申し訳ないですけど、会社が解雇を撤回する
ことはほとんどありませんから、
あんまり期待はしないでくださいね。」

とこんな感じの会話になるのが
関の山でしょう。

ちなみに先ほども言いましたが、民事不介入ですから、
解雇が有効か無効かを意見することすら嫌がる
監督官もいると
思われます。

とにかく、常に法を根拠としてしか動けない
のが行政組織であり、この点についてはある意味
悲しい定めとも言えるでしょう。

ところで、実に、この会話にすべての
ポイントが入っていることに
注目していただきたいと思います。

つまり、先ほど来述べているように民事には不介入ですから、
解雇の是非の判断には踏み込みません。

ということ。

そして、
解雇予告が30日前になされていないなら、
解雇予告手当をその分とりましょう。
ということになります。

理由は、
労働基準法第20条違反(解雇の予告)
なので
ということになります。

ということで、今回はここまでです。

続きの
解雇予告
解雇予告手当については、
また違う稿で書きますので、しばらくお待ちください!

それではまた次号をご覧いただければ幸いです。